昇り降りの日々

学務様が見てる

黒、透明

「色が失われていく」、という表現がある。
この世に絶望したとき、何かへの関心を急速に失っていくとき、そんな時あなたの心には暗い雲が立ち込め、視界からは色が失われていく。
鮮やかに色づいていたあなたの世界は暗くよどみ、まるで真っ黒の世界に閉じ込められたかのような……え、黒なの?

黒ってあらゆる色が混ざってできた色なはずだ。
もしあなたの視界に真っ黒な世界が映っているのなら、それはきっといろんなものに巻き込まれてごちゃ混ぜになってしまっているのかもしれない。
色が失われる、というよりも色が混ざるという言葉のほうが正しいのかもしれない。

あるいは、世界が白黒であったとしてもそれはそれで乙なものである。
あらゆる無駄を排し必要な起伏だけを切り取った景色は、きっとあなたにとって大事なものが何かを教えてくれる。

そんな君はどうなの、という話だが僕の世界は透明である。そして僕自身もまた透明である。
まだ誰からも関心を向けられず、また僕からも関心を向けることはない、色が失われた状態の最上級。
この世の誰の瞳にも映らない透明人間だ。
でももし、あなたの”色のない世界”に僕の姿が見えるなら、今の僕の顔をきっと覚えていてほしい。

「”透明人間”という曲があるのを知ってる?」、そう言ったあなたの顔が思い出せない。
あのときのあなたもまた、色を失った透明人間だったのだろうか。