昇り降りの日々

学務様が見てる

君と息をすること

隣の部屋に「死」が住んでいて、僕の隣には穏やかに呼吸をする君が眠っている。

壁一枚隔てた向こう側は僕たちにとって存在しない世界で、今この瞬間に地球のどこかで命の灯火が消えていることを知っていても、君は明日の朝に目覚めると信じて眠りにつく。

きっと明日、目の前で人の形をした肉塊が空に消えていっても、僕たちの体は化学反応を続ける。

少し怖くなって「ねえ」と声をかけても君は目覚めなくて、それでも布団の中に溜まる熱が、僕達が生きていることを証明している。 

でも考えてしまう、この布団の熱が僕だけのものなんじゃないか、熱を発しているのが僕だけだとしたら、君が本当は冷たかったら。

耳の奥で血が流れる音が、背中にたまる汗が、少し痛む足が、頭の奥に響く心臓の音が、どうしようもなく僕が生きていることを主張しているのに、向こうを向く君が生きていることを確かめる手だてがない。

君に触れればいいだけなのに、その音に耳をすませばいいだけなのに。

壁一枚隔てた向こう側は僕にとって存在しない世界。