人を殺してしまった。
底のない闇を宿した瞳が、じっと僕を見つめている。
「そんなつもりじゃなかった」、そんなありきたりな台詞が口から溢れ、僕の胸と喉を締め上げた。
彼女が最後に見せた、悲しいような、困ったようなあの表情は瞼にこびりついたまま、瞬きする度にフラッシュバックする。
あのとき僕はどうしていればよかったのだろう?
あのとき僕はなんて声をかけるべきだったのだろう?
どうして僕は、彼女を殺さなければならなかったのだろう?
何度も何度も「助けて」と唱えても、心は軽くなるどころか、その重さを増していく。
叫びだしたくなる衝動を押さえつけようとする度に、呼吸が荒くなり、肺がヒリヒリとする。
ふと、僕が許しを請う相手が、目の前の死体ではなく虚空に浮かぶ何かであると気づく。
そうか、僕は彼女のことなんて何とも思っていないのだ。
ただ「今の苦しみから解放されたい」、その一心で僕の体は脈打ち、口は呪文を唱えている。
気がつけば僕は彼女を浴槽に引き摺り、バラバラにしてしまっていた。
その目はもう僕を見つめてはいなかった。
一つ一つのパーツを丁寧に袋に詰めて、クーラーボックスにしまっていく。
作業を終える頃には動悸は治まり、口から溢れていた呪文も止まっていた。
許された、そう思った。
僕はもう二度と彼女に会わなくてすむ。
さようなら。
僕たち、初めてにしてはうまくやれたよね。