昇り降りの日々

学務様が見てる

169秒だけは僕のもの

この街に引っ越してきてもうすぐ半年が経つ。

 

どうしようもなく心がいっぱいになって、抱え込めなくなったときの僕は海や空に逃げた。

この街にはそれがどこにもない。

必ず誰かの光で汚されていて、どこまで行っても人間を感じる。

バイクで走り出しても状況は変わらない。

結局マンションに囲まれた人通りの多い公園で、都市の光に霞んだ月を見ながら煙草を吸うことしかできない。

せめてもの抵抗としてイヤホンで耳を塞ぎ、音楽で外界を埋め尽くす。

煙草の火が消える10分足らずのこの時間を引き伸ばすために、もう一本、もう一本と火をつける。

もう桜は咲いているのに、指の先がなんとなく寒い。

左手に残った匂いがかつて暮らしていた土地を思い出させる。

あと一回、くしゃみをしたら帰ろう。