昇り降りの日々

学務様が見てる

アスファルトを泳ぐ魚

1

逃げ場がない、はっきりとそう感じた。

右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても、なんなら上を見たって何かが僕の道を塞いでいる。 

 どこまでいっても道があって、人がいて、空には何も写ってなくて、人はレールに沿って進むだけ。

どこまでも行けるというのは本当かもしれないけれど、誰かが作った道の上を歩くなら、その先には必ず他の誰かがいる。

 

2

ある場所のやり取りで少し嫌な思いをした。

本当に大したことはない、些細なやり取りだ。

でも僕の心はとても弱くて、その「大したことはない」やり取りで心をやられてしまった。

きっと僕は間違ってない、と思う。

けれど、この小さなダメージが、死ぬまで僕に付きまとうとしたら、ゾッとして、考えるのをやめてしまった。

 

 

3

なんとなく、家に帰りたくなかった。

いつもとは違って、渋谷駅から改札の外へ出てみた。

人、人、人、人、全てが自分の意思を持って歩く人。

少し怖くなって、なんだか胃の下が痛くなって、目についた店に入って普段では食べられない量のご飯を食べた。

それでも足りなくて、コーヒーを流し込んだり、ポカリを流し込んでみたり、動くのが苦しくなるまで入れた。

それでもダメだったので、喫茶店で少し休憩して、代々木公園まで歩いた。

流れる人に逆らって歩く細い歩道は、なんとなく僕だけが行き先を間違えているようで気持ち悪かった。と同時によくわからない優越感もあった。

 

代々木公園では、男女が愛を深め、集団が親睦を深め、それに託つけた人々の叫びが響いていた。

なんとなく桜を見る気がしなくて、下を向いて歩いていた。

でも自分は、この咲き誇った桜に吸い寄せられてやってきた人間のうちの一人であることに気づいて、また悲しい気持ちになってしまった。

何かに囃し立てられ、イナゴのように群がり、路傍の花にも目もくれずそれに食らいつく、自分は特別だと思っていても結局は有象無象の一人でしかない。

 

4

帰りの坂を登る途中、きっと子供が折ったであろう折り紙の魚が道の上で干からびていた。

なんとなくいたたまれなくなって拾おうとしたけれど、拾った後でどうするんだ、近くにそれを置く場所もない、持ち帰るわけにもいかない。

その場で10秒ほど立ち尽くして、結局触らずに帰ってきてしまった。

 

そういえば、アスファルトは時間スケールを適当に取れば流体らしい。

僕がそれを急いているだけで、あの魚は泳いでいたのだろうか。

そんなことはなさそう。

 

5

4つの怖いことに対して、今日という1日はまあ楽しかったと思う。

きっと僕は、寂しいのが怖いだけだ。

 

終わり