昇り降りの日々

学務様が見てる

亡霊

あなたは幽霊を見たことがあるだろうか。
僕は、ある。一人だけ。

僕はずっとその存在を信じていなかった。
ただ周りの人間や世の中にあふれる書籍はみんなその存在を肯定していて、僕の知らないところで闊歩しているようだった。
必死で探してみた。でも結局、義務教育を終えてもその姿を目にすることはなかった。

僕はその後通っていた中学からは遠く離れた高校に入学し、僕を知る人間が誰もいない遠い世界へやってきた。
そのはずなのに、どうやらこの世界にも幽霊はいるらしかった。
いや、僕は場所を変えれば幽霊に会えると期待していた。
1年間必死で幽霊を探した。自転車で北から南まで走り回り、背よりも高い草葉をかき分け、または海に潜ってみたり、望遠鏡を覗き込んでみたり、朝昼夜ずっと一箇所を監視してみたり。
そしてついに、僕は幽霊を見つけたのだ。
彼は海の底でもなく、雲の上でもなければ夜に住んでいるわけでもなかった。
ただひたすら僕の後ろを付いてきていて、振り返ればそこにいた。

その時はもうすでに周りには何十人もの幽霊を見たという人もいたが、そんなことはどうでも良かった。
0と1の違いは僕にとって何よりも大きくて、「見た側の人間」になれたことが何よりも嬉しかった。

そして数年が経ち、彼は消えてしまった。

確かに僕は幽霊の存在を知っている。僕は1の側にいる。 もう一度見たいという気持ちは無い。
ただ、僕以外のみんなはもうたくさんの幽霊に会っていて、それが羨ましく思えてしまう。
違う、僕が幽霊の見えない異常者であることを認めたくない。
これじゃなんだかまるで、僕が幽霊みたいじゃないか。